追憶

三題囃第二弾!

今回のテーマは

「傘」「京都」「supreme」 @いなお か さん

まだまだお題募集中なので何卒!

 

 

 

人生の好きなシーンを切り取って、ノートに保存できるたならば

どれほど良いだろうか。

 

4限目の授業は憂鬱だ。

昼食の弁当がいい具合に消化され、

代わりに眠気が蓄積される。

 

おまけに今日は気温も20度前後、

雲一つなく、日差しが直撃する。

日傘の一つ欲しいものだ。

 

俺は教室の窓から運動場を眺め

今日も机上の空論に吹ける。

 

 

「おーい。おーい。」

耳障りな声が聴こえる。

「おい!大志!!」

ドンっ!!

物凄い衝撃で目を覚ます。

 

「やっと起きたかよ、この寝坊助。」

「アキラ。」

 

どうやら俺は寝てしまったようだ。

 

「先生が授業サボった罰で、今日の放課後、

居残りでみんなの宿題の添削しろだってよ。」

 

「はあ?なんでそんなこと俺が…

おめえも席後ろなら起こしてくれたっていいだろ?」

 

「バーカ。自分の身は自分で守れ!だろ?」

 

アキラとは中学校からの腐れ縁だ。

同じバンドが好きという共通点から意気投合して、

というか、何から何まで思考が被るから、

いつも一緒にいる。

 

「許せねえよ。俺をこんなにしてほんとお前許せねえよ。」

 

「ははは。まあせいぜい頑張んな。」

 

 

放課後、俺はクラスメイト40人分の宿題の面倒を見ていた。

いつ終わるんだよ。

あのくそ教師。

 

3時間前の自分を後悔し、

ぶつぶつと愚痴を零しながら

筆を動かしていると教室の扉が開く音がした。

 

「ま〜た、寝てたんだって?」

「小鳥。」

 

彼女は隣のクラスの北野小鳥。

アキラが密かに好意を寄せる人物でもある。

 

「何回目なの?いい加減学びなよ。」

悪戯に笑う彼女、チラリと顔を出す八重歯が

イライラを倍増させる。

 

「うるせーなー。睡魔は生理現象なんだよ。」

「あとどんなけあるの?」

「あと15冊」

「しょうがないな〜。お姉さんが手伝ってあげましょう。」

「え?マジ?」

「その代わり、高くつくよ〜。」

 

不適に笑う彼女に、背筋が凍る。

が、それよりもこの罰ゲームを早く片付けることが最優先だ。

俺は小悪魔との契約を交わした。

 

「くは〜!終わったぜー!!」

「も〜、何か言うことは?」

「おう!サンキュな小鳥!」

「よろしい。もう真っ暗だね。」

 

気づくと時計の針は6時を回っていた。

 

「ほんとだな。さっさとけーるか。」

「…」

「ん?何やってんだよ。置いてくぞ?」

「え、あ、うん!」

 

「でさあアキラがさあ…」

「そうなんだ。じゃあ私こっちだから。」

「おう。今日はありがとうな。あ、そういえば、お返し何が欲しいの?」

「え、あー考えとくよ(もう叶えてもらっちゃったし)。」

「マジかよ。こえーな。」

「ははは。またね。」

 

 

家に帰り、携帯を開くとアキラから不在着信があった。

俺は折り返す。

 

「ちゃんと終わったか?」

「ああ。余裕だぜ。小鳥に手伝って…

いや、俺にかかればこんな罰則ちょろいもんだぜ。」

「罰を受けない努力をしてくれ。」

「んで?なんかあったか?」

「俺再来週の明治村への遠足で、小鳥に告白しようと思うんだ。」

「マジで?ついにか。」

「ああ。そんでお前にお膳立てして欲しくてさ。」

「もちろんだぜ。親友の頼みだもんな。」

「ありがとう。詳細は...」

 

 

翌朝俺は、寝坊した。

朝から全力ダッシュで学校に向かう。

間一髪で間に合った。

俺は切れた息を整えながら靴箱を開く。

 

すると中には一通の手紙が入っていた。

 

”おはよう。

小鳥だよ♪

昨日のお返し覚えてる?

忘れたなんて言わせないよ☺️

それでね。考えたんだけど

再来週遠足じゃない?

だから服欲しいなあって。

週末京都行こう!

約束ね?”

 

アキラに悪いかな。

でも、これはパシリみたいなもんだしな。

 

週末———。

 

「遅い!5分前行動は基本でしょ?」

「悪い。迷った。」

「ってかsupremeなんだ。」

「ああこのTシャツか?カッケーだろ?」

「ハイブラ厨乙。」

「え。」

 

俺たちは河原町にある古着屋を回った。

ある程度、欲しいものが揃ったところで

俺たちは京都観光をすることにした。

 

そして清水寺についた頃、

時刻はもう5時を過ぎていた。

 

黄昏時、

そこから一望できる京都の街並みは

まさに宝石のようだった。

 

隣を見ると、

夕陽に頬を赤く染められた小鳥がいた。

あれ。こいつこんな可愛かったけ。

 

すると俺の視線に気づいたのか、

不意に小鳥がこっちに振り向き、

目があった。

 

数十秒見つめ合うと

自然と顔が近くなった。

小鳥が目を瞑る。

プクッとした唇に俺の意識は吸い込まれそうになる。

そして、接吻をかわす

その最中、

 

ゴーン!

 

どこかの寺の鐘がなった。

 

俺たちは現実に帰還した。

 

「付き合ってみる?」

 

「え?」

 

思いがけない一言に、頭が真っ白になる。

沈黙が訪れる。

 

「嘘だよ。」

「は?」

「もうこんな時間だね。帰ろっか。」

 

家に着き、俺は自分の部屋のベットに横たわる。

 

あれは、夢だったんだろうか。

 

 

翌週、俺は気が気じゃなかった。

あの日以来、小鳥を意識するようになった。

その結果学校ですれ違っても、うまく話せなかった。

 

そして、その日を迎えた。

 

 

「大志。俺昨日全然眠れなかったよ。」

「そ、そうだよな。運命の日だもんな。」

「作戦よろしくな。」

「あ、ああ。」

 

俺は複雑な気分だった。

 

この1週間、俺は葛藤し続けた。

友情を取るべきか、自分の気持ちを取るべきか。

 

今日は、俺にとっても大事な日になりそうだ。

 

明治村には、園内を走る機関車がある。

そこで俺たちの作戦は始まる。

 

俺は小鳥の座る席の横に腰をかけた。

 

「おっす。」

「大志...」

「晴れてよかったな。天気予報雨だったのに。」

「そうだね。」

「そいえばさ、明治村見物の蜂蜜ソフトクリーム食いに行こうぜ!」

「うん。いいよ。」

 

駅につき、俺たちはソフトクリーム屋に向かった。

その道中。

 

「小鳥?」

「何?」

「大学どこいくんだ?」

「東京の大学に行こうと思ってる。」

「そっかじゃあアキラと一緒だな。」

「あ、そうなんだ。」

「俺大阪だからなあ、もう会うことも減るなあ。」

「…」

「小鳥?」

「大志は私のことどう思ってるの?」

「え?」

「私は大志のことが好き。大志はどう思ってるの?」

「俺は..」

 

 

〜2週間前〜

「作戦なんだけどな。小鳥多分お前のこと好きだよ。」

「は?なんでそうなるんだよ?」

「なんだよ。気づいてなかったのかよ。

悔しいけど、小鳥が好きなのは俺じゃねえ。大志。お前だ。」

「いやいやいや。そんなわけねえだろ。」

「全く。お前はクソ鈍感ラノベの主人公だな。

俺は大志が小鳥のこと好きなら諦めようと思ってる。」

「いや。俺は、あんな女、なんとも思ってねえよ。」

「ほんとか!?じゃあ作戦なんだが、

お前小鳥を振ってくれ。そんで落ち込んだ小鳥を俺が慰める。どうだ?」

「完璧だな。」

「決まりだ。」

 

 

 

「俺はお前のことなんて好きじゃない。」

「え?」

「俺はお前のことなんとも思ってないよ。」

「嘘つき。」

「は?」

「じゃあなんで涙目なの?」

「これは..花粉症だ。」

「大志。私は…」

「うるせえよ!興味ねえって。じゃあな。」

 

俺は友達を選んだ。

 

 

1年後———。

 

俺は京都大学に進んだ。

俺には高校の時の記憶がない。

何かすごいショックがあったらしく、

限定的に記憶を失った。

 

今日は、大学の友人と京都探索をしている。

八橋をたくさん食べ、昼間から川床で酒も飲んだ。

夕方から清水寺に向かった。

 

黄昏時、俺の頭に電撃が走った。

頬を赤く染めた女の姿———。

 

何か重要な記憶なのだろうか。

しかし、思い出そうとする脳にモヤがかかる。

 

家に戻り、Instagramを開く。

すると、中学の時の親友のアキラが投稿していた。

”アキラとその横で笑っている女性の写真”

 

俺にはなぜかアキラの場所が自分であるかのような感覚に襲われた。